雨模様も吹っ飛ばすロックキッズの熱気で、野音はピーカン照り。毎年恒例となった、FM802のDJ 大抜卓人と主催イベンター・GREENSスタッフの井上による前説と開会宣言から今年もスタート。20周年というアニバーサリーイヤーなだけに、二人も並々ならぬ高揚感と、これから登場するアーティストへの期待感で胸がいっぱいのようだ!
トップバッターを務めたのはSPiCYSOL。「始まるぜRUSH BALL☆R!準備はいいか!?」とKENNY(Vo/Gt)が呼びかけ、艶のある声が刺激的な「Sex On Fire」でライブをスタート。ビートの効いたサウンドが響き渡ると、のっけから心地よさそうに身体を揺らす観客たち。「調子はどうですか!?ゆっくりチルしていってください!」の言葉通り、吹き抜ける風にマッチしたグルーヴィなサウンドに身を任せたくなる。曲に合わせて、PETE(Tp/Key)はキーボードから、トランペットに持ち替えてプレイ。みるみるうちに、楽曲のスケール感と会場の熱気を上昇させ、結婚する友人のために作ったという「Coral」へ。さらに、「ダメな日も、よかった日もあなた次第でいい日になるよって曲です」とKENNYが切り出して歌った、晴れた野音にぴったりな新曲「Good Day」も披露。最後の「Honey Flavor」まで、熱いメッセージを真っすぐに歌い、観客の胸の奥へしっかりと届けた。
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1曲目「Mobile」からダンサブルなナンバーで、観客を躍らせまくったのはDATS。ズンズンと地を揺らすように響くビートにフロアが激しく波打つ。そんな会場の様子と観客の高揚感、野音に吹き抜ける風に合せて、MONJOE(Vo/Syn)が「感じるがままに自由に踊っちゃおうよ」と、タクトを振るようにリズムを変幻自在に操っていく。早川知輝(Gt)、伊原卓哉(Bs)、大井一彌(Dr)のメンバーそれぞれが、曲に応じてパーカッションやパッド、サンプラーなど楽器を変え、その曲、その瞬間に最も適した方法でグルーヴを練り上げていくスタイルがユニークだ。型にとらわれず自由に、観客と共に純粋に音楽を楽しみながらライブをする姿に、観ている方も嬉しくなる。ほとんどMCで何かを語ることはなく、あくまでも楽曲を通して想いを届け、最後には鳴りやまないビートの余韻を観客の胸にしっかりと残して颯爽とステージを後にした。
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SEの「ゴーストバスターズ」のテーマソングに合せて、勢いよく登場したのは札幌発のThe Floor。リハーサルから観客を惹きつけていただけに、1曲目「Wannabe」から強固な一体感でライブの幕を開ける。キャッチ―かつポップな「Cheers With You」でテンションをぶち上げたかと思いきや、一転してノスタルジックにじっくりと歌う「寄り道」を披露するなど、楽曲性の幅広さをと緩急ある展開でさらにグングン引き込まれる。MCでは、「初めてRUSH BALLを観た時、すげーカッコいいバンドがいっぱい出てて。すげー悔しくって……。それから1年経って、今このステージに立てていることを嬉しく思います! 次は、RUSH BALLで会おうぜ!」とササキハヤト(Vo/Gt)がイベントへの想いを語る場面も。そして、音楽への愛を歌った「18」では、ササキのギターストラップが外れてもなんのその。ハプニングももろともせず、走り出してしまったものは止まることができないと言わんばかりに、楽曲に込めた音楽にかける決意のまま最後まで止まることなく駆け抜け、鮮烈なステージを締めくくった。
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MCバトル日本一のラッパーであるR-指定と、トラックメイカーとしても活躍するDJ 松永による“1MC1DJのHIP HOPユニット”が野音に参上。他はバンドばかりの中、マイクとターンテーブルで戦いを挑むことへの並々ならぬ想いを開始早々ぶつけ観客の心に火をつける幕開けに。地元の大阪に帰ってきたR-指定が「ただいま!」と挨拶し、「かっこいいバンドにラップとDJで勝負を挑むからには、俺達にしかできない技で闘うしかない!」と宣言。すると、観客から5つのお題をもらい、全てのフレーズを即興で盛り込む「聖徳太子フリースタイル」を披露。見事成功すると、観客が総立ちで歓声を送る他では見れない光景を生み出した。ラストは、DJ 松永による痺れるスーパープレイから、ヒップホップを武器にステージに立つ決意と、ロックフェスに乗り込む気概を込めて歌った「スポットライト」へ。“いつかやってやるぞ。いつもやってきたぞ”という確固たる自信と、“逃げもせずに立ってるぜ!”という覚悟がヒシヒシと伝わってくるライブで存在感をみせつけた。
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神戸発のパノラマパナマタウンは、自己紹介がてらに投下した「PPT INTRODUCE」でいきなりアグレッシブに仕掛け、会場を弾ませる。岩渕想太(Vo/Gt)がステージを飛び出し、観客の中に潜り込んでは会場後方によじのぼり「見たことない熱狂を作りにきた!」、「事件を起こしに来た」とシャウト。マシンガンのごとく繰り出されるリリックとうねるリズムに、観客も手を挙げ声を上げ応えながら、ライブを共に作り上げていく。MCで岩渕は、「2年前にRUSH BALLのATMCに出たけど、去年は呼ばれなくて。正直言って、周りのバンドがどんどん大きくなっていく中で、俺たちは前に進めず…。周りを見て悔しかったり焦ったりするけど、今が一番カッコいいと思ってるから、俺たちの歩幅で今度はメインステージのオオトリまでたどり着きます!」と高らかに宣言。そのまま「ラプチャー」を丁寧かつエモーショナルに歌い上げる。シーンへのアゲインストな姿勢を露わにしながら、「俺達が風穴を上げてやる!」とファイティングポーズを崩さないライブでRUSH BALLのメインステージへと想いを繋いだ。
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今度は、tetoが疾走感のあるパンキッシュなライブで大暴れ。山崎陸(Gt)もギターをぶんぶん振り回しながら掻き鳴らし、小池貞利(Vo/Gt)は衝動を掻きむしるように「Pain Pain Pain」を歌い、うって変わって「暖かい都会から」ではより感傷的な声で歌った。続けて、「夏は嫌いなんですけど、好きだった人が夏が好きだから、好きになろうと努力をしたあの時を思い出して」と、小池のノスタルジックな語りから「9月になること」へ。さらに、「10年、20年、30年後でもいいんですけど、ふと今日を思い出せたら嬉しいです」とミディアムなナンバー「忘れた」が鳴らされ、観客もじっと聴き耽る。ラストは、「誰にも内緒で聴くロックが、世界で一番最高って歌をやります」と「高層ビルと人工衛星」を披露。膝を付いてギターを鳴らし、独白のようにセリフを語る小池。この瞬間を忘れられないように、全身全霊で命を燃やすように放たれたロックンロールを浴びて、いてもいられなくなった観客の拳が続々と突きあがる。痛快なステージだった。
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ここにきて異様に落ち着いた、和やかな雰囲気が野音に立ちこめる。それもそのはず、キツネツキは、RUSH BALL常連の9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝善充からなるユニットだから。とはいえ、まったりとしたムードはMCのみ。演奏が始まるや否や、分厚い音の波が押し寄せ、思わず後ずさりしてしまうぐらいに圧倒させられる。「odoro odoro」「ハイカラちゃん」など日本語詞が際立つを和のエッセンスが効いた楽曲を軸に披露しながら、活動歴もリリース数も少ないため童謡「こぎつね」「証城寺の狸囃子」をカバーする場面も。聴き馴染みのある童謡が、菅原の高い歌声と轟音で鳴り響く爆発力にグッとくる。そのまま「ケダモノダモノ」、「ふたりはサイコ」と怒涛に攻め立ていき、会場の熱狂を煽っていく。ゲストドラムを迎えた3人編成とは思えないほどの厚みとエネルギーがガツンとくる、堂々たるステージだった。
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メンバーがひとりずつステージに現れると、深々と一礼。紅一点となる東京発のガールズバンド、リーガルリリーのライブがスタート。たかはしほのか(Vo/Gt)の繊細ながらも力強い歌声が、野音を包み込む。「ぶらんこ」、「スターノイズ」とライティングが映える夜にピッタリなナンバーが続き、より歌詞世界が幻想的に感じられ身に沁みわたってくる。月や星のように届きそうで届かない、もどかしさや絶妙な距離感を、たかはしのかすみがかった声がよりリアルに感じさせてくれた。じっくりと聴かせたり、ふんわりとした何気ないMCをしていたかと思えば、ギターをひずませ、ゆきやま(Dr)が激しくドラムを打ち鳴らす静と動の移り変わりに、思わずドキッとさせられる。さらに、新曲「僕のリリー」、「うつくしいひと」と惜しみなく披露。新曲でも危うげでドメスティックな傍ら、キュートでいじらしいフレーズが介在しており、バンドとたかはしの持つ、繊細さと力強さ、静と動、といった掴み切れない二面性の魅力が詰まっていた。
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イベントのラストを飾るのは、リハーサルから会場のボルテージを高め切っていたSaucy Dog。石原慎也(Vo/Gt)の弾き語りから歌われる「煙」でライブをスタート。葛藤や悶々したもどかしい気持ちを、歌にのせて伝える。続いて、せとゆいか(Dr)が追い打ちをかけるように刻むドラムが、どこまでも続いていくような期待感を増幅させる「メトロノウム」へ。時折、秋澤和貴(Ba)と目を合わせながらパワフルなアンサンブルを生み出し、MCでは、せとが「最高の締めくくりやったなと思ってもらえるように、一生懸命頑張ります!」と真摯に語り、新作『サラダデイズ』から「真昼の月」を披露。石原の声がどこまでも突き抜けていき、野音の広い空に映えるステージングをみせる。今度は石原が、「やっぱ大阪好きやなって思いました。今日、みんなの思いがあって、ここのステージに立つことができて……、いつかここ大阪城野音で、ワンマンライブをしてみたいと思えました。その後も愛されるようなバンドになりたい!」と胸の内を語る。そして、「大事な曲を2曲やります」と切り出し、アンセム「いつか」と「グッバイ」を披露。未来への温かみを帯びたナンバーで、観客と想いを気持ちをひとつにしてライブを締めくくった。
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こうして、7時間にも及ぶ全9組のステージが幕を閉じた。この日、凌ぎを削ったアーティストたちと観客が分かち合ったアツい想いやドラマは、またいつの日かのRUSH BALLへと繋がっていくひとつの歴史になった。20周年のメモリアルイヤーである今年は、6月30日に台湾大学体育館で『RUSH BALL in 台湾』が特別開催。さらに、泉大津フェニックスで8月25日・26日・9月1日と3日間に渡って『RUSH BALL 2018』が開催される。20年の歴史と想い、そしてドラマが詰まったライブを見逃さないでほしい。
Text by大西健斗
Photo by田浦ボン/橋本塁(キツネツキ)
RUSH BALL★R
2018.5.19 大阪城音楽堂